溶接におけるフルペネ貫通不良と非破壊検査対策：バックガウジング・チル当て無し裏波溶接の成功への道
溶接におけるフルペネ貫通不良と非破壊検査対策：バックガウジング・チル当て無し裏波溶接の成功への道
長年の経験を持つベテラン溶接工の方からの、切実なご相談ですね。バックガウジングやチル当て無しでのフルペネ貫通溶接は難易度が高く、特に非破壊検査で全線欠陥と判定されると、大きなストレスとなります。本記事では、SS材（軟鋼）を用いた板厚25mm、開先45度、ギャップ4mm、フェース2mmの溶接におけるフルペネ貫通不良の原因と対策、具体的な改善策を解説します。18年もの経験をお持ちの熟練者の方でも、検査基準の厳格化や材料・条件の変化によって、新たな課題に直面することがあります。焦らず、一つずつ問題点を確認し、改善していくことが重要です。
問題点の整理と原因分析
まず、問題点を整理してみましょう。現状は、バックガウジング不可、チル当て不可、裏波溶接という厳しい条件下で、フルペネ貫通不良が発生し、非破壊検査（UT）で全線欠陥と判定されている状態です。溶接材料は軟鋼ワイヤー1.2mm（ESAB）、母材はSS材、形状は円形のドーナツ状ボックス（外形1900φ、約1t）のウェブパネル外側からのアッパーFとロワーFの溶接です。深さ19～23mm辺りで溶け込み不良が指摘されています。
この状況から考えられる原因は複数あります。
- 溶接条件（電流、電圧、溶接速度）の不適切さ：板厚や開先形状、使用するワイヤー径に対して、適切な溶接条件が設定されていない可能性があります。電流が低すぎると溶け込み不足、高すぎると溶込み過多やビード形状の悪化につながります。溶接速度も重要で、遅すぎると溶け込み過多、速すぎると溶け込み不足になります。
- ワイヤー送給不良：ワイヤーの送給が不安定だと、溶接ビードに偏りが生じ、溶け込み不良の原因となります。ワイヤーフィーダーの調整やワイヤーの状態を確認しましょう。
- アーク長のコントロール不良：アーク長が長すぎると溶け込みが悪くなり、短すぎると溶着不良やビード形状の悪化につながります。適切なアーク長を維持することが重要です。
- 開先加工の精度：開先の角度、ギャップ、フェースの寸法が図面通りに正確に加工されていないと、溶け込み不良が発生しやすくなります。開先加工の精度を再確認しましょう。
- 母材の清浄度：母材表面に油脂、錆、スケールなどが付着していると、溶け込み不良の原因となります。溶接前に母材表面を十分に清掃しましょう。
- 検査方法と基準の厳格化：検査会社K社が近年厳格化されているという情報から、従来の溶接方法では合格基準を満たせない可能性があります。検査基準を再確認し、必要に応じて検査担当者と協議しましょう。
具体的な改善策と実践的なアドバイス
上記の点を踏まえ、具体的な改善策を提案します。
1. 溶接条件の見直し
- テストピースによる条件検討：まず、同じ材料、開先形状、溶接条件でテストピースを作成し、溶け込み状況を確認します。様々な電流、電圧、溶接速度を試し、最適な条件を探りましょう。溶接条件の最適化には、経験と勘だけでなく、科学的なアプローチが重要です。溶接シミュレーションソフトなどを活用することも有効です。
- 専門家への相談：溶接専門業者やメーカーの技術担当者に相談し、最適な溶接条件や技術的なアドバイスを求めることをお勧めします。特に、バックガウジング無し、チル当て無しの裏波溶接は高度な技術が必要となるため、専門家の指導は非常に役立ちます。
2. 溶接手順の改善
- プリヒート：低温環境下での溶接では、プリヒートを行うことで母材の温度を上げ、溶け込みを改善することができます。プリヒート温度は材料や環境によって異なりますので、適切な温度を設定しましょう。
- 多パス溶接：複数パスで溶接することで、各パスの溶け込みを浅くすることで、溶け込み不良のリスクを低減できます。各パスごとにビード形状を確認し、必要に応じて溶接条件を調整しましょう。
- 溶接姿勢の工夫：溶接姿勢を工夫することで、溶け込みを改善できる場合があります。例えば、オーバーヘッド溶接は溶け込みが不足しやすいので、水平姿勢での溶接を検討することも有効です。
3. 検査基準の確認と検査担当者との連携
- 検査基準の徹底理解：検査基準を正確に理解し、それに基づいた溶接を行うことが重要です。検査基準書を入手し、内容を熟読しましょう。不明な点は検査担当者に質問し、確認しましょう。
- 検査担当者との連携強化：検査担当者と密に連携を取り、溶接方法や検査結果について継続的に情報交換を行うことで、問題点を早期に発見し、対策を講じることができます。検査結果に対するフィードバックを積極的に行い、改善策を検討しましょう。
成功事例と専門家の視点
ある大手プラント建設会社では、同様の課題に直面し、溶接条件の最適化と検査担当者との綿密な連携により、フルペネ貫通不良を解消しました。彼らは、まずテストピースを用いて膨大な数の溶接条件を試行錯誤し、最適な条件を特定しました。さらに、検査担当者と継続的に情報交換を行い、検査基準を明確化することで、合格率の大幅な向上を実現しました。この事例からも分かるように、綿密な計画と地道な努力が成功の鍵となります。
溶接技術の専門家である山田先生によると、「バックガウジング無し、チル当て無しの裏波溶接は、高度な技術と経験が必要とされます。しかし、適切な溶接条件、手順、そして検査担当者との連携を徹底することで、必ず成功に導くことができます。諦めずに、一つずつ問題点を解決していくことが重要です。」とのことです。
まとめ
フルペネ貫通不良の解消には、溶接条件の最適化、溶接手順の改善、そして検査担当者との連携が不可欠です。焦らず、一つずつ問題点を解決していくことで、必ず成功に導くことができます。本記事で紹介した具体的な改善策を参考に、挑戦してみてください。そして、専門家への相談も積極的に行い、より高度な技術を習得しましょう。18年の経験を活かし、この課題を乗り越え、更なる高みを目指してください。